NO.80
仰木日向
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「20代の作曲家から見た音楽業界と、お金について」

初めまして、仰木日向と申します。主にゲーム音楽などの作曲家としてフリーで活動している、まだまだネームバリューもない新参者ではありますが、記事執筆のご依頼を受けましたので、恐れながら少し小話を書かせて頂きます。

私はある音楽制作会社に3年ほど勤めた後にフリーランスとして活動を始めた作曲家なのですが、その制作会社にいた頃よく聞いた言葉で「最近は不景気だ。昔はもっと予算があったのに」というのがあります。その言葉を聞くたびに私が思ったのは、単純に「へぇ、そうなんだ」というもので、特にそれ以上に感じるものはありませんでした。それというのも、私たち20代の作曲家にとって、予算がないという状況は最初からいままでずっと同じ、当たり前のことだからです。

しかし、それによって起こっていることも、仕事をしていくうちに知りました。例えば、予算が組めないことで起こる品質の劣化。具体的には「本来生音じゃなきゃ物足りなくなってしまうはずのものまで打ち込みで作る」という状況が当たり前になってきているということについて。これが当たり前だと思っている私たち若手は、一度真剣に考えてみなければいけないような気がしています。

音楽の品質は必ずしも生音こそが至高というわけではないと思いますが、それが必要なシーン(もともとは生音だったもの)でもそれを用意出来ないというのは、私たちが小さい頃や学生時代に体験した感動を、次の世代は知ることがないという未来につながってしまうものだと思います。

音楽家という仕事はただ音を重ねるだけではなく、音楽を作り、音楽で感動するという体験をこれからも次の世代に継承していくということも含むのではないかと思っています。予算に関する努力は本来私たちの仕事ではないのかもしれませんが、予算を用意する方法を考え、相談し、交渉し、そして一つずつ実現する、音楽の感動を守る。そういう努力もまた、音楽家が音楽のために出来る大切な行動の一つなのではないでしょうか。

…というのは言葉としては綺麗なものですが、特に仕事のない若手などは、価格を下げてみたり、予算捻出の交渉を避けたり、クライアントさんのご機嫌を伺って仕事を守ろうとしたりもしますし、その気持ちもよくわかります。誰しも、まずは生活があって、そこからです。それもふまえて――

たしかに低価格で受ければ仕事はとれるかもしれません。クライアントも、一時的には喜ぶということもあるでしょう。でも、その結果生まれる音楽がどういうものになるか、その音楽を生んだ自分が一体どんな作家になってしまうのか、その音楽を聴く人がどんな音楽体験をするのかを考えて、音楽と向き合ってもらえたら良いなと、同じ二十代の若手の一人としては、思うところだったりします。音楽に感動する人がいるからこそ、音楽は求められる。けど、感動するために必要なものを削ってしまったら、感動する人もまた消えてしまうのではないでしょうか。

生意気な言葉を並べましたが、音楽の感動がつまらない理由で損なわれているということに関して、ある一人の若手は真剣に考えていると知って頂きたいと思い書かせて頂きました。

まだまだ感動的な音楽作りには研鑽の足りない私ですが、これからも精一杯作ってまいります。
皆様の音楽で感動する素敵な体験が、これからの人達にもあり続けますように。

仰木日向



◎仰木日向 (おうぎひなた) Profile
1985年生まれ。作曲を志し音楽制作会社に入社、3年間アシスタントをした後に独立、フリーランスの作曲として活動を始める。作曲業を通して様々な出会いがあり、その中で作詞と小説執筆に興味を持ち、活動名義を本名からペンネーム(仰木日向)に変更、2014年の秋から本格的に作詞と小説を始める。現在は主に作詞と小説執筆、たまに作曲で、フリーランスとして活動中。また、趣味でDTM入門4コマ漫画「できるかなってDTM」も執筆している。

○主な作曲
ゲーム『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』(サウンドディレクター)
ゲーム『神撃のバハムート』(イベントBGM)
ゲーム『天下統一クロニクル』(BGM)
ゲーム『不良道』(BGM)

○主な作詞/執筆
アニメCD『ガールフレンド(仮)』村上文緒 キャラクターソング(作詞)
アニメCD『ガールフレンド(仮)』相楽エミ キャラクターソング(作詞)
アニメCD『ガールフレンド(仮)』夏目真尋 キャラクターソング(作詞)
声優CD『内田彩1stアルバム アップルミント』収録楽曲「オレンジ」(作詞)
ゲーム『サンリオ ShowByRock!』楽曲「ハマって☆Rockin' Sweet!!」(作詞)
ゲーム『サンリオ ShowByRock!』楽曲「StandUp!バイガンバー!」(作詞)
ゲーム『サンリオ ShowByRock!』楽曲「旅路宵酔ゐ夢花火」(作詞)
ライトノベル『スーパーヒロイン学園①』(小説執筆)
ドラマCD『スーパーヒロイン学園INSIDEボイスドラマ』(脚本執筆)

※掲載は所属当時

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