NO.103-3 2019.5.9

渡辺俊幸



前回からの続きです。
私はステージ左サイドの2階席に座りながら世界でも五本指に入ると言われる名ホールに響く天空に舞い上がるかのような美しいストリングスの調べに驚きを覚えつつ聞き入り、初めて体験する真の生音の素晴らしさに圧倒されながら感動の極みに達していた。マイクもPAも使用せずに十分な音量で楽器から直接聴衆の耳に音が伝わる事自体が驚きで、またその音が機械的なリバーブも付けずにそれまで耳にした事がない美しさで響いていること等、全て一般の聴衆にとって当たり前に感じるであろう事なのだが、6年ほどポップスの分野で仕事をして来た私にとっては、普通の人が想像する以上に全てが新鮮で驚き以外の何ものでもなかったのだ。これが真の意味での生音によるコンサートの姿なのだと改めて感じ入った。ご存知の通りポップスの分野でのレコーディングにおいては、デッドな空間で録音し、必要であれば後でリバーブ等を使用して残響を足すなどし、各楽器間の音量バランスもTDの段階で上げ下げして調整して行くのが普通だ。クラシックの世界では、全てそれがステージ上で完成されている訳で、この当たり前の事にかえって大きな感動を覚え、それと同時に24歳にして自分の新たな目標がこの時に定まったのだ。ポップスの分野でもクラシック系のホールのステージ上で音楽的に全て完結する意図を持ちながら管弦楽を駆使して演奏するための緻密なスコアを書き、可能であれば自分で指揮もするという目標だ。そしてそれ以降は、現在まで変わらずその目標を頭に置きつつ歩んで来た。その間も様々な方々との出会いやご縁に助けられて今の自分がある事を痛感するが、改めて自分の音楽家人生を振り返り大きな節目を見てみると、まずはプロドラマーを目指していた時期があり、そのおかげで赤い鳥のドラマーとしてプロの音楽家の仲間入りをする事が出来た。そしてグレープがたまたま私と同じ所属事務所に入った事でさだまさし氏との縁が出来、そのお陰もあって彼のプロデューサーとして活躍する機会が生まれ、その流れの中、たまたまハリウッドの劇場で観た映画「未知との遭遇」の音楽に感動し、留学の決意をする事になった。その留学先がボストンであったことから小澤征爾氏という偉大な指揮者とボストン交響楽団を通してクラシック音楽に出会い、極上のホールで生のオーケストラ体験をすることになり自分の道が定まったという事になる。全ては赤い鳥に入ったことから始まったと言えるが、それは現在全く演奏することもないドラムという楽器を極めようとした結果つかんだ運と言える。人生において無駄な事は無いのだ。

〇第一回
〇第二回

◎渡辺俊幸(わたなべとしゆき) Profile
愛知県名古屋市生まれ。
作曲家・編曲家・指揮者。
青山学院大学入学と同時にフォークグループ「赤い鳥」のドラム・キーボード担当として音楽活動を開始。その後、さだまさしの専属プロデューサー・編曲家としての活動を経て米国バークリー音楽大学に留学。ハーブ・ポメロイ氏、マイケル・ギブス氏に師事。ボストン音楽院で指揮法を学ぶ。帰国後は、様々なTVドラマや映画、アニメ等の音楽を手がけながら、さだまさし、平原綾香他のアーティストのプロデュース・編曲を担当するなど、純音楽も含め様々な分野で活躍中。
作曲家としての代表作にNHK大河ドラマ「利家とまつ」、「毛利元就」、NH Kドラマ「大地の子」、NHK 連続テレビ小説「おひさま」、「どんど晴れ」、 映画「平成モスラシリーズ」、「サトラレ」、「解夏」、「UDON」、「劇場版マジンガーZ」、テレビアニメ「宇宙兄弟」、「銀河機攻隊マジェスティックプリンス」、「新幹線変形ロボ シンカリオン」、愛・地球博開会式テーマ曲「愛・未来」、防衛庁・自衛隊50周年記念委嘱曲「祝典序曲 輝ける勇者たち」他がある。
TVドラマ「リング〜最終章〜」で第20回ザ・テレビジョン・ドラマアカデミー賞、劇中音楽賞を受賞。平原綾香「おひさま〜大切なあなたへ」で第53回日本レコード大賞編曲賞を受賞。
近年、指揮者としてポップスオーケストラのコンサート活動にも力を注いでいる。
洗足学園音楽大学教授。

渡辺俊幸オフィシャルサイト http://www.toshiyuki-watanabe.com

 

                                      

 

                                                         

 

                      

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