NO.108 2020.2.6

山下宏明



映像音楽の現場ではときおり「あざといか否か」という論争が巻き起こることがある。例えば「感動」の表現について。やれそのシンバルは煽りすぎだ、いやむしろハープのグリッサンドを入れてもっと盛り上げて…といった意見が交わされる。

そもそもあざとさってなんだっけ…?と自分自身わからなくなってくることもある。

あざとさという概念を紐解いていくと、どうやら映像に音楽が「合いすぎている」ということに対する抵抗感があると気付く。俗に言うミッキーマウジング(動きと音がピッタリ合っている)の話ではなく、感動的なシーンに感動的な音楽が当たっているという、いわば心情面での話。もしかすると日本人独特の恥じらいの文化が根底にあるのかもしれない。だから少し控えめにしてみたり、ときには変化球を投げてみたりするが、それとて「合っている」の範疇で狙ってやっていることであり、あざといことに変わりはない。

人間が意志を持って何かを作り上げる以上、そこにあざとさは多かれ少なかれついて回るのだろう。もっと言ってしまえばこの「あざとさ論争」自体が大いなるあざとさという檻の中でグルグルと回っているようにも思えてくる。なるべくあざといとは思われたくない、というあざとさ。

しかしこの論争を決してバカには出来ない。実際出来上がったものに対して「音楽がくどい、うるさい、合っていない」といった感想を耳にすればそれはそれで相応にはヘコむ。

私は自分が良いと思うことは全てやり切ったし、一音たりとも書き換えるべき音符はない、と言えてしまえばそれはそれで立派なことだけど、もっと違う何かがあったかもしれないという思いが常について回る。だから出来上がってひとたび世に出てしまったものについては正直あまり聞き返したくないし、家族と一緒にテレビを見ていても自分の書いた曲がひとしきり流れ終わったあとに「実は今の曲…」などと打ち明けたりする。決して自信がないのではなく、ただちょっと居心地が悪いだけ。

それでもたまに「これは本当に良く書けた」と思えるものがあって、だから今でもこの仕事を続けていられる。残念ながらそういったものに限ってどうやって書いたのか全く思い出せない。


◎山下宏明(やましたひろあき) Profile
1974年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒。
映画、ドラマ、舞台、CMなど多方面で活動。岩井俊二プロデュース映画「虹の女神」(2006)以降、常盤司郎監督「最初の晩餐」(2019)、「暗黒女子」(2017)、「クソ野郎と美しき世界」(2018)、草K剛主演舞台「家族のはなし PART I」(2019)、ドラマ「東野圭吾 カッコウの卵は誰のもの」(2016)。プロ麻雀リーグMリーグ公式アンセム作曲。au「海の声」(2016)で日本レコード大賞優秀作品賞(編曲)を受賞。新しい地図(稲垣吾郎・草K剛・香取慎吾)が歌うAbemaTV「7.2 新しい別の窓」テーマソング「72かのナニかの何?」作曲。

 

                                      

 

                                                         

 

                      

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