NO.121
Deep寿
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ペペロンチーノ完全食化計画

僕はペペロンチーノというパスタ料理が好きすぎて、ここ3年の昼食の80%を占めている。
ニンニクと唐辛子をオリーブオイルで煮ている香りを想像するだけで、24時間いつでも食欲が湧いてくる、と言っても過言ではない。
ニンニクは滋養強壮とビタミンB類、唐辛子はカプサイシンによる代謝促進、オリーブオイルはポリフェノールによる抗酸化作用と、食材の効能が素晴らしく高い。
しかし、毎日食べるとなると、残念ながら栄養に偏りが出来てしまう。
食物繊維の不足、B類以外のビタミンやミネラルの不足、パスタの原料である小麦のグルテンという糖質による、食後血糖値の急上昇と中性脂肪の増加が心配だ。
これ以上腹が出てくるのは、やっぱり勘弁してほしい。

というわけで、365日食べ続けても大丈夫なように、ペペロンチーノ完全食化計画をスタートさせた。
食物繊維の不足は、パスタと形状の似ていて淡白な風味のエノキで解決。
ビタミンとミネラルは、高栄養のブロッコリースプラウトのトッピングで解決。
若干の青臭さが、ニンニクや唐辛子の風味をまったく邪魔をせず、むしろ引き立たせているように感じられ大成功。

問題はパスタだ。
全粒粉パスタに変更すれば、小麦の表皮、胚芽、胚乳が含まれるので、食物繊維やビタミンも豊富で、腸での糖質の吸収がゆっくりになって食後血糖値の急上昇になり難く、白い小麦粉のパスタに比べてグルテンが30%ほど減少するなど、一見良いことづくめだ。
しかし、作ってみればわかるが、パスタというより焼きそば、という感じの出来上がりで、パサパサした食感が残念だ。
乳化が命のペペロンチーノは、フライパンにパスタのグルテンが溶出した茹で汁を足してオリーブオイルと乳化させるのだが、全粒粉パスタだと茹で汁に含まれるグルテンが少ないので乳化がほとんど起きない。
論理的に正しくても、美味しい方に流されてしまうのが人間の弱さであろう。
いつしか全粒粉パスタを諦め、ペペロンチーノのためなら出腹も体重増加も受容し、それが寿命を削ろうとも本望、という境地に達していた。

ある時「リゾッタータ」という料理法を知ったことから、僕の人生は動き出した。
寝起きにSNSを見ていたところ「邪道にして至高のペペロンチーノ」という記事を目にした。
至高とかは聞き飽きたフレーズだが「邪道」に心が惹かれた。
その「邪道」が「リゾッタータ」だったわけである。
リゾットという料理をざっくり言うと、フライパンで玉ねぎと米をオリーブオイルでソテーした後、そこにコンソメ系のだし汁を足しながら煮る料理だ。
そのリゾットの技法をパスタ料理に応用した料理法が「リゾッタータ」。

その記事にある「邪道にして至高のペペロンチーノ」を作ってみる。
フライパンにニンニクと唐辛子をオリーブオイルで煮て、香りが立ってきたところに、コンソメを溶いた水350ccほど足し、塩を2つまみほど入れ、水温が70度ほどになったところにパスタを入れ、強めの中火でパスタを煮る。
そのパスタ推奨の茹で時間の1分前にタイマーをかけて、赤ワインを楽しむ。
タイマーが鳴った頃には、だし汁のほとんどはパスタに吸収されて極上のアルデンテに仕上がり、素晴らしく濃厚に乳化した味わい深いペペロンチーノの完成だ。
「リゾッタータ」のキモは、パスタから溶出したグルテンを全回収して、オリーブオイルと乳化することだ。 確かに、邪道にして至高の乳化具合だが、こんなに多くのグルテンを取ると、中性脂肪の増加が非常に心配だ。

そこで閃いたのが「全粒粉パスタをリゾッタータで作ればいい」だった。
もともとグルテンが少ない全粒粉パスタであるが、少ないながら溶出グルテン全回収ならば、そこそこの乳化が望めるのではないだろうか。
そこで早速作ってみたところ大成功。
ここで完全食化計画は完成し、念願の365日ペペロンチーノ生活が可能となったのだ。


Deep寿(ディイプコトブキ) Profile
作編曲家 東京都杉並区出身
主な活動 歌謡曲の編曲 商業演劇の舞台音楽作曲
作品数 歌謡曲の編曲/300曲 舞台音楽/600曲 TVや映画の劇伴/300曲
コンピュータによる作編曲に造詣が深く、30年ほどのキャリア
レコーディングエンジニアのキャリアもあり、楽曲制作の入口から出口までコミット可能

HP http://web.deep4kotobuki.jp
Twitter https://twitter.com/DeepKotobuki
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