No.125
坂本昌之
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母親の趣味で、ピアノとバイオリンを習わされていた。本当は野球を思う存分やりたかったのだが。

初めて小遣いで買ったレコードが、バンバン「『いちご白書』をもう一度」、小学5年の頃だった。
編曲の瀬尾一三師匠を当時はセオカズミだと思っていた。
読売巨人軍のサウスポー、高橋一三投手がタカハシカズミだったからである。

中島みゆきさんの夜会に初めて参加した時、リハーサル初日にトイレで偶然、瀬尾師匠と並んだ。
「はじめまして。キーボードの坂本です。初めて買ったレコードが『いちご白書』です。」
「…そうか。今、言うな。」
「すみません…。」
そんな会話から始まった「夜会Vol.10 海嘯」の仕事はとても刺激的だった。

『いちご白書』を買った小学生当時、雑誌「新譜ジャーナル」でスタジオミュージシャン特集という記事があり、主役の歌手、アーティストを支える仕事がカッコよく見えて強い憧れを抱いた。
スタジオでアレンジ仕事を始めたのが24、5歳頃だったが、その時は自分は演奏してはいけない、と思っていた。
ピアノの倉田信雄師匠はじめ、先輩ミュージシャンの演奏が凄すぎたからである。

ある時、ベースの富倉安生師匠が「ピアノ弾けるのなら、スタジオで一緒にやればいいのに」とおっしゃられた。そのお言葉がなかったら、きっと自分は弾いていなかったと思う。

それから5年後に、夜会で富倉師匠と一緒に演奏することが出来た。
小林信吾さんとの出会いも、この夜会だった。
とにかく所作すべてがカッコよく、この人を兄貴と慕う、と勝手に決めた。

この数年後、平原綾香さんデビューの時に信吾さんが一緒にプロデュースして下さった。
その他の仕事でも、たくさん助けて頂いた。
信吾さん、本当に本当にありがとうございました。

瀬尾師匠が徳永英明さんもプロデュースしていて、ツアーに参加するきっかけを与えて下さった。
結果、カバーアルバム「VOCALIST」シリーズに繋がることになる。

2024年に今一度、人とのご縁を感じ大切に考えたい、そんな仕事が始まる。
欠陥だらけの自身を再構築する「『自分白書』をもう一度」の心境である。

たくさんの先輩に甘え、そして引き上げて頂いた。
途方もなく恥まみれの人生だが、母親にも信吾さんにも会えることが叶わない今、せめて精一杯音楽に向き合っていこうと思う。


◎坂本昌之(さかもとまさゆき) Profile
北海道札幌市出身。
2004年、平原綾香「Jupiter」で第46回日本レコード大賞編曲賞を受賞。
徳永英明、鬼束ちひろ、佐藤竹善、柴田淳、ToshI、松山千春、大竹しのぶ、薬師丸ひろ子、坂本冬美、JUJU、May J.、岩崎宏美、中森明菜、SunSet Swish、山本達彦、稲垣潤一、林部智史、由紀さおり、石川さゆり、宗次郎、海援隊、さだまさし、佐田玲子、などのシングル、アルバム作品に参加。
アニメ「おジャ魔女どれみ」主題歌編曲、アニメ「獣の奏者エリン」劇伴作曲など。
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