NO.29 2004.4.2

千住 明

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いつもいつもJCAAの会合、行事等に参加できない不良会員の千住です。せめてもの償いのつもりで今回のエッセイを書かせて頂きます。
このコーナーは僕も夜中の仕事の合間にこっそりと見ます。実用音楽の職人プロ集団であるJCAAで、同じ境遇の先輩同輩後輩の皆様のエッセイをのぞき見ると、やはり日ごろのうっぷんがたまっている方もいらっしゃるご様子、疲れていますよね。音楽業界でプロフェッショナルであり続ける事は、好きではじめた音楽だから無上の喜びもあるけれど、それと同じ位の不条理もあります。
プロジェクトの期待を一身に集め、時間と格闘し、無理難題にもポーカーフェイスで答え、抽象的な注文をこなし、失敗は許されず、プロジェクトで唯一の腕の見せ所も、その部分だけはやらなくて良いと政治的に他の音楽に決められ、自分のプランも台なしにされ、それでもいざとなったら全ての責任を負う。かなりオーダー仕事では恵まれている普段温厚な僕でも、これだけの羅列が出来るのだから相当な世界ですよね。そんな職業を20年以上続けている僕もかなり疲れています。だけど人から僕でなければと望まれれば、任して下さいと次の大きな山に笑顔で臨んでしまうのです。ご同業の皆様にだからこぼせる愚痴も公の場ではおくびにも出せない、言ってみれば「ほめられ好きの内弁慶」でしょうか?或いは人知れず自分の羽を抜き機を織る「鶴の恩返し」でしょうか?何に対する恩返しかというと、それは自分の音楽に心を向けてくれた人に対してです。「音楽は人に聴いてもらって初めて命を持つ」と思い続けて仕事をして来ました。僕達の音楽はどのような形であれ圧倒的な頻度で世間一般に流れるものです。ある時僕の音楽で救った命があると聞いた事があります。そしてその反対も考えられます。人の感情に寄り添ってしまう音楽の力は恐ろしく、それを操る人達はどんなジャンルであれ、ある種の聖職でなければならないと思います。もし僕の音楽を心で聴き、命を感じてくれる人がいたら、僕はその人のために羽根を抜き、機を織るのです。


◎千住 明(せんじゅあきら) Profile
作曲家/Composer
1960年10月21日東京生まれ。慶応義塾大学工学部を経て東京芸術大学音楽学部作曲科卒業。 東京芸術大学大学院音楽研究科作曲専攻を首席で修了。修了作品「EDEN」は史上8人目の東京芸術大学買上となり、同大学芸術資料館に永久保存されている。南弘明、黛敏郎の各氏に師事。

芸大在学中からその活動は、ポップスから純音楽まで多岐にわたり、作曲家・編曲家・音楽プロデューサーとしてグローバルに活躍。ソロアルバム、メインアルバム、プロデュースアルバムは数多い。

映画「226」「RAMPO~国際版」「わが心の銀河鉄道」「愛を乞うひと」「黄泉がえり」、テレビドラマ「高校教師」「家なき子」「ほんまもん」「砂の器」、アニメ「機動戦士Vガンダム」、NHKスペシャル「世紀を越えて」、NHK「日本 映像の20世紀」、CM「アサヒスーパードライ」「コスモ石油」等、音楽を担当した作品は数多い。

オーケストラ作品では、フィルハーモニア、チェコフィル、ワルシャワフィル、N響、等の録音のCDがあり、ヴァーツラフ・ノイマン、シャルル・デュトア等の巨匠指揮者とのセッションも多い。
又、ヌーノ、カート・エリング、ジェーン・バーキン、シセル、ザンフィル等の海外アーティストのプロデュースも多く手がける。
'97年第20回、'99年第22回、'04年第27回日本アカデミー賞優秀音楽賞受賞。
'99年第13回TOYP大賞受賞。'01年第28回ドラマアカデミー賞劇中音楽賞受賞。
著書「音楽の扉」(時事通信社)。

(2004年3月現在)

★ホームページ  
https://akirasenju.com/


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