NO.35 2005/4/14

 

 

天野 抄妃子 SAKIKO AMANO

 

五感がはぐらかされる


 日に日に春めいて来ているはずだ。日本各地の様子は朝のニュースを見て知っている。しだれ梅の見頃は今週いっぱいとか、白木蓮が咲き始めたとか。そのたびに、風に揺れたりミツバチをお供にした花々が画面いっぱいに映し出される。 
  花の映像は、こう言っちゃ〜なんだけど、ノーアイディアの編集ビデオを見るようで何とも味気ない。 
  やっと春を迎えたこの時期に(3月中旬)もう色褪せた気分になるのは気のせいだろうか?(雪国の人ごめんなさい!)

 せっかくの春夏秋冬も、温度差の少ない場所に日がな一日いると季節感にウトくなる。五感がはぐらかされる。五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)の鋭さや鈍さは、センスのあるなしに関わる。体の変調に気づくアンテナでもある。私の五感はもともとハンデを負っている。ド近視や鼻炎、牡蠣アレルギーなどだ。まあ人並みだとは思うが。
  そんな私が最近、嗅覚をはぐらかされた。花粉のせいではない。鼻が利く―(嗅覚が鋭い意から)わずかな兆候から役に立つ事柄を見つけ出す能力を持っている―という次元でのことだ。フロイト流に言うと、無意識(本能)と超自我(道徳心・良心)のバランスをとる、自我の判断ミスということになろう。ミスの原因は、自我が無意識(嗅覚)の警告を無視したためだ。この手の自己分析は単純明快だから、神経症気味の人にはお勧めだ。
エッ?もっと複雑なのがいいって?…そういうあなたには医者をお薦めする。

 さて、五感を甦らせる簡単な方法がある。近くの中華街に行って、中国茶葉の専門店を見つけよう。半時間余裕があれば、迷わず試飲をしよう。試飲といっても、よくある紙コップのサービスではない。どうぞどうぞと勧められるままテーブルに着くと、茶葉の説明が始まる。どれを淹れますか?とニコニコ顔で訊かれて、それではと飲んでみたい茶をリクエストする。

 さあ、いよいよ茶会の始まりだ。淹れ方の説明を聞きながら、しばし手元に注目する。湯はザブザブと、タップリ使う。急須(茶壺)や湯呑み(茶杯)は何回も温めるし、中国茶葉はよく出るから何杯も飲める。
 茶葉を温めた急須に入れ、湯を高い位置から勢いよく目一杯淹れる。ふたをすると、あふれ出る湯とともに泡立ったアクが押し流される。すぐにまた、急須の外側全体に湯をかける。この一連の動作を見ていると、イリュージョンにハマることがある。自分が一瞬、急須と同化するような…。ふと我に返ると、茶漉しを付けた別の容器(平等壺)に、急須を傾けざまパッと置いて茶を移し、客に振る舞うばかりになっている。
 湯呑みは小さく、背の高いのと低いのと2種類ある。まず背の高い湯呑み(聞香杯)の方に茶を注いでいく。全員に行き渡ったら、背の低い湯呑み(茶杯)でふたをし、親指を上にして両手で持つ。手の形がハート形になるといい。クルッと上下を返してテーブルに置き、聞香杯を持ち上げる。茶杯のふちで雫を切ってから両手の中で転がし、さらにそれを顔に近づけ鼻許へ。そう、まず香りだけを楽しむのだ!
次は、やれやれ、やっと茶を味わう番だ。期待していい、ここまで来たら味覚がウズウズしてるはず。茶杯を手に取り一気に飲み干そう!なんせおかわり自由だ♪

 話が長くなったが、このように中国茶は、五感全部を使ってゆっくりと楽しむようにできている。淹れ方には台湾の茶藝、中国福建や広東の工夫茶があるが、うれしいことに作法はない。茶菓子をつまみながら、時を忘れて皆で茶宴をするも良し、部屋に缶詰状態のときは、慰め相手にするも良し。
 さあ、そろそろ失礼して店を出よう。試飲した茶葉が気に入ったら、好きな量だけ買って帰るのもいい。茶菓子も買える。その気になったら茶器も買える。
何であれ、日頃から五感を整えておくに越したことはない。まだまだ人生は長く、まだまだ急場は数知れず…だ。

イラストレーション 山内 三貴子

                      

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