NO.36 2005.6.24

横山 淳

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  じめじめとした日が続いています。今も空は灰色、もうすぐ一雨きそうです。鬱陶しいですね。。。でも、そういえば子供の頃は、雨、好きでしたね。外で遊べない雨の日には部屋の窓のそばに座って、庭の雑草が雨粒で不規則に揺れる様子を見たり、なまめかしいホワイトノイズのような雨音を聴いてうっとりしたりしてました。こう書くとなんだか暗い子供のようですが、これがひとりっこが外で遊べない日の明るい日常だったんです。
  今は丁度アレンジャーズサミットのコンサートが終わったばかり。あ、申し遅れましたが、私は今月入会させていただいた横山 淳と申します。入ったばかりの私が、先日のコンサートに参加させていただいたり、いきなり「今月の作家」とは!恐れ多い事です。恐れ多い、といえば。。。コンサートでは、私が子供の頃からすばらしい作品を聴かせていただいていた大先輩の皆様と楽屋でご一緒させていただいて、それはそれは恐れ多いことでした。舞台より楽屋にいる方が緊張する本番というのもはじめてのことでした。そんなことを書いたら叱られるか。えーと、舞台でも、もちろん緊張しましたっ!とはいえ皆様の楽しくも勉強になるお話をたっぷりと聞かせていただいて幸せでした。
  さて、雨の好きだった子供時代に戻ってみたいとおもいます。思い出せる限りにおいて、最初に聴いた音楽はシューベルトの「魔王」です。最初に聴くにはいささかディープな曲で、もちろんドイツ語などわかるはずもなく、「魔王」がなんなのかすらわかりませんでしたが、その疾走感に酔い、最後の部分には訳もなく恐ろしい気持ちにさせられたのにもかかわらず、なんだか気になって何度も繰り返し聴いたのをはっきり覚えています。内容はわからずとも音の力、音楽の力のすばらしさ不思議さを最初にして、がつ〜んとたたきこまれてしまいました。
  その後始めた楽器(ヴァイオリン)は、さぼりながらも続け、中学時代は器楽部で合奏の楽しみを知り、高校に進学して間もないある日(そういえばこの日も雨だったなぁ)の放課後、オーケストラの練習を見学しようと、練習場だった教室のドアを開けた瞬間、私は顔面をおもいっきり殴られた。。。ような気がするほどすごい音にKOさせられました。ドアを開けた瞬間がちょうど指揮者が振り下ろした瞬間だったのですね、Fのユニゾンがフォルテで鳴ったのです。ベートーヴェンの「エグモント」の序曲でした。それまでもコンサートでは聴いたことのあるオーケストラの音でしたが、目の前で吼えるオーケストラは初めてで、動物園の檻の中のライオンとアフリカの草原での至近距離のライオンぐらいの差があったんですね。こいつはすげぇや、とおもい、もちろんすぐに入部。
  そうこうするうち、どっぷりと音楽の世界に入り込み、気がつけば今度は本格的に音を書いてみたいと思うようになり、文化祭ではチューバ・クインテットなどというへんてこなものを書いたりし、その後は必死に音楽を勉強し、もちろんポップスやジャズにもはまり、また気がつけばなんと楽譜を書くことを仕事にしていました。怖かった最初に聴いた音楽の経験、すごかったオーケストラの音の経験、それらは私にとってとても大事な経験です。その後書いてきた様々な響きも、全部そこからはじまったような気すらします。これからも忘れないし、折にふれて昨日のことのように思い出すことでしょう。
  なんだか久しぶりに雨が好きだったことを思い出してきました。はやく降りださないかなぁ。。。


◎横山 淳(よこやまじゅん) Profile
1957年東京生まれ。現在、プロ、アマを問わず多くの演奏家、演奏団体に依頼を受け、作曲・編曲作品を提供し、CD録音、映像への音楽作曲など多くの分野で幅広く活動している。オーケストラ、室内楽編成などの器楽作品作曲、編曲の他、2000年よりソプラノ佐藤しのぶ氏の演奏会、CD録音における編曲を数多く行っている。2004年には岡山ロータリークラブ創立70周年記念曲「そして河は流れつづける・・・」の作曲、フランス人監督Jerome Merieux氏による映画“Chronique d'unprintemps japonais”のための音楽作曲などの活動を行っている。



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