NO.1142021.7.12
私は元来、言葉で自分の想いを紡ぐのが苦手である。
母がよく気のつく人で、私がどもりそうになるとすぐに助け舟を出したため、幼いながらに外交は母に任せておけばいいやと開き直り、家の外ではとても大人しい子どもを装っていた。
お気に入りの遊びは気の向くままにピアノを弾くこと。
友だちと喧嘩した日、親に怒られた日、理不尽に押し潰されそうになった日、気がすむまでピアノの前に座っていた。
だが、子どもだった私の演奏能力も表現力もたかが知れていて思い描いたことの半分も音にならない。
呼吸するのと同じように弾けるようになれたらいいのに。その一心で日々レッスンに通いピアノの練習をしていた。
中学生の時「東京の音大に行きたい」と言い始めた私に両親は頭を抱えたが、数年がかりで説得し東京音楽大学の入試を受けさせてもらった。
面接の日、居並ぶ教授陣に圧倒される私。その中で終始ニコニコとずっと優しい微笑みをたたえてこちらを見ている先生がいる。
それが、服部克久先生だった。
先生は質疑応答の時には冗談を言ったりして、とても場を和ませてくださった。そんなお人柄に、私はすっかり大ファンになってしまった。
まだかまだかと服部先生の授業を心待ちにし、卒業後は研究室に「服部先生の連絡先を教えてください！」と言いに行った。
有り難くも私の卒業制作を聞いた先生が、僕のところにいらっしゃいとおっしゃってくださり、あれよあれよという間に卒業制作の中からサックス8重奏の曲の出版が決まり、音源をレコーディングしてCD付きの譜面を出版。
卒業後まっさらだった私のキャリアの第一歩ができあがった。
先生のお宅には度々お邪魔して、自分の作品を見ていただいたり、先生のお手伝いをさせていただいたりした。基本的に先生は私の書いた音に対して「いいね」しかおっしゃらない。
音楽にまつわる話も多かったけれど、世間話もたくさんした。最新のiPhone買っちゃった！と見せていただいたり、最近このアプリにハマってて、と星座のアプリを教えていただいたり、思い出すのはそんなことばかり。
先生はいつもニコニコ微笑んでいらっしゃって、お母さんは元気？お父さんは元気？お姉さんはどうしてるの？とよく私の家族のことも気にかけてくださった。
だから帰り道はおじいちゃんのお家に遊びに行った時のような、ほんわかとしたあたたかな気持ちで帰宅していた。
コンサートでは毎回、先生の譜面をいただいて大事に持ち帰った。大切なことは全て現場の空気と譜面から学んだ。それが先生の教え方だった。
先月、都城市総合文化ホールで服部克久先生のメモリアルコンサートが開かれ、私も出演させていただいた。
舞台袖から本番を見ながら様々な想いが頭を駆け巡っていた。
先生の曲はどこまでも美しく、聞いていると本当に幸せな気持ちになる。
思い返せば先生は、私にとって然るべきタイミングで、順序立ててお仕事を任せてくださっていたんだなということに気づく。
そんな師匠の大きな愛情を改めて感じて胸がいっぱいになった。
私が結婚の報告をした際、先生は大変喜んでくださりこんな言葉をくださった。
「チカちゃんの音楽が益々深みを増すことを期待しています。」
音楽が深みを増す。なんて素敵な表現だろうか、そして克久先生らしい暖かい言葉だろうか。
この言葉は私にとって宝物だ。
音楽家としての私の人生はまだはじまったばかり。
一つ歳を重ねるごとに、一つ経験を積むごとに、音楽の深みを増していける、そんな音楽家に私はなりたい。
◎岩永知佳（イワナガ チカ） Profile
1988年9月13日福岡県生まれ。３歳でピアノ、９歳でエレクトーンをはじめ、７歳から10歳までドラム・ラテンパーカッションを習う。
吹奏楽部でEuphoniumを担当。
東京音楽大学、作曲科映画放送音楽コースに特待生で入学。
2010年東京音楽大学Sax科定期演奏会において委嘱作品Sax８重奏のためのアメリカ「都市の肖像」を発表。
同曲は2011年服部克久氏監修のもとレコーディングを実施しCD付きの楽譜を出版。
卒業後、作編曲家、キーボーディストとして都内を中心に活動中。
映画「じゅういちぶんのいち」主題歌「Dear my hero」(キングレコード/上野優華）作編曲
アニメ「ワカコ酒」主題歌「幸せの帰り路」(キングレコード/上野優華）編曲
上野優華１stアルバム、「天使のウィンク」（カバー）編曲
郷ひろみSPECIAL CONCERT 2016 at サントリーホール 、オーケストラアレンジ参加
上野優華デビュー3周年記念ワンマン・ツアー(Piano)
宮本亜門演出ミュージカル「狸御殿」アレンジ参加
X4 3rdシングル「キズナ」(テレビ朝日系「Break Out」2016年12月度エンディングトラック)作編曲
BEE SHUFFLE（ユニバーサル） 2rdアルバム収録「I Know」作編曲
東宝ミュージカル「キューティーブロンド」東京公演＆全国ツアー(Keyboard)
TOKYO MX-TVドラマ「今夜はLL」主題歌「流れる星に花束を」作曲・ストリングスアレンジ
青柳翔 (ソニー)「時計台のクリスマス」作編曲
JET STREAM 50th Anniversary Special Concert（国際フォーラム）オーケストラアレンジ参加
スーパー歌舞伎IIワンピース 作編曲で参加
日越外交関係樹立45 周年事業（Motion Blue YOKOHAMA）上野優華Live (Piano)
東京ポップスオーケストラコンサート（練馬文化センター大ホール）編曲・指揮出演
スーパー歌舞伎II（セカンド）『新版 オグリ』アレンジ参加
＋New Companyミュージカル「千年に一度の奇跡」シリーズ作曲
他
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岩永知佳
私は元来、言葉で自分の想いを紡ぐのが苦手である。
母がよく気のつく人で、私がどもりそうになるとすぐに助け舟を出したため、幼いながらに外交は母に任せておけばいいやと開き直り、家の外ではとても大人しい子どもを装っていた。
お気に入りの遊びは気の向くままにピアノを弾くこと。
友だちと喧嘩した日、親に怒られた日、理不尽に押し潰されそうになった日、気がすむまでピアノの前に座っていた。
だが、子どもだった私の演奏能力も表現力もたかが知れていて思い描いたことの半分も音にならない。
呼吸するのと同じように弾けるようになれたらいいのに。その一心で日々レッスンに通いピアノの練習をしていた。
中学生の時「東京の音大に行きたい」と言い始めた私に両親は頭を抱えたが、数年がかりで説得し東京音楽大学の入試を受けさせてもらった。
面接の日、居並ぶ教授陣に圧倒される私。その中で終始ニコニコとずっと優しい微笑みをたたえてこちらを見ている先生がいる。
それが、服部克久先生だった。
先生は質疑応答の時には冗談を言ったりして、とても場を和ませてくださった。そんなお人柄に、私はすっかり大ファンになってしまった。
まだかまだかと服部先生の授業を心待ちにし、卒業後は研究室に「服部先生の連絡先を教えてください！」と言いに行った。
有り難くも私の卒業制作を聞いた先生が、僕のところにいらっしゃいとおっしゃってくださり、あれよあれよという間に卒業制作の中からサックス8重奏の曲の出版が決まり、音源をレコーディングしてCD付きの譜面を出版。
卒業後まっさらだった私のキャリアの第一歩ができあがった。
先生のお宅には度々お邪魔して、自分の作品を見ていただいたり、先生のお手伝いをさせていただいたりした。基本的に先生は私の書いた音に対して「いいね」しかおっしゃらない。
音楽にまつわる話も多かったけれど、世間話もたくさんした。最新のiPhone買っちゃった！と見せていただいたり、最近このアプリにハマってて、と星座のアプリを教えていただいたり、思い出すのはそんなことばかり。
先生はいつもニコニコ微笑んでいらっしゃって、お母さんは元気？お父さんは元気？お姉さんはどうしてるの？とよく私の家族のことも気にかけてくださった。
だから帰り道はおじいちゃんのお家に遊びに行った時のような、ほんわかとしたあたたかな気持ちで帰宅していた。
コンサートでは毎回、先生の譜面をいただいて大事に持ち帰った。大切なことは全て現場の空気と譜面から学んだ。それが先生の教え方だった。
先月、都城市総合文化ホールで服部克久先生のメモリアルコンサートが開かれ、私も出演させていただいた。
舞台袖から本番を見ながら様々な想いが頭を駆け巡っていた。
先生の曲はどこまでも美しく、聞いていると本当に幸せな気持ちになる。
思い返せば先生は、私にとって然るべきタイミングで、順序立ててお仕事を任せてくださっていたんだなということに気づく。
そんな師匠の大きな愛情を改めて感じて胸がいっぱいになった。
私が結婚の報告をした際、先生は大変喜んでくださりこんな言葉をくださった。
「チカちゃんの音楽が益々深みを増すことを期待しています。」
音楽が深みを増す。なんて素敵な表現だろうか、そして克久先生らしい暖かい言葉だろうか。
この言葉は私にとって宝物だ。
音楽家としての私の人生はまだはじまったばかり。
一つ歳を重ねるごとに、一つ経験を積むごとに、音楽の深みを増していける、そんな音楽家に私はなりたい。
◎岩永知佳（イワナガ チカ） Profile
1988年9月13日福岡県生まれ。３歳でピアノ、９歳でエレクトーンをはじめ、７歳から10歳までドラム・ラテンパーカッションを習う。
吹奏楽部でEuphoniumを担当。
東京音楽大学、作曲科映画放送音楽コースに特待生で入学。
2010年東京音楽大学Sax科定期演奏会において委嘱作品Sax８重奏のためのアメリカ「都市の肖像」を発表。
同曲は2011年服部克久氏監修のもとレコーディングを実施しCD付きの楽譜を出版。
卒業後、作編曲家、キーボーディストとして都内を中心に活動中。
映画「じゅういちぶんのいち」主題歌「Dear my hero」(キングレコード/上野優華）作編曲
アニメ「ワカコ酒」主題歌「幸せの帰り路」(キングレコード/上野優華）編曲
上野優華１stアルバム、「天使のウィンク」（カバー）編曲
郷ひろみSPECIAL CONCERT 2016 at サントリーホール 、オーケストラアレンジ参加
上野優華デビュー3周年記念ワンマン・ツアー(Piano)
宮本亜門演出ミュージカル「狸御殿」アレンジ参加
X4 3rdシングル「キズナ」(テレビ朝日系「Break Out」2016年12月度エンディングトラック)作編曲
BEE SHUFFLE（ユニバーサル） 2rdアルバム収録「I Know」作編曲
東宝ミュージカル「キューティーブロンド」東京公演＆全国ツアー(Keyboard)
TOKYO MX-TVドラマ「今夜はLL」主題歌「流れる星に花束を」作曲・ストリングスアレンジ
青柳翔 (ソニー)「時計台のクリスマス」作編曲
JET STREAM 50th Anniversary Special Concert（国際フォーラム）オーケストラアレンジ参加
スーパー歌舞伎IIワンピース 作編曲で参加
日越外交関係樹立45 周年事業（Motion Blue YOKOHAMA）上野優華Live (Piano)
東京ポップスオーケストラコンサート（練馬文化センター大ホール）編曲・指揮出演
スーパー歌舞伎II（セカンド）『新版 オグリ』アレンジ参加
＋New Companyミュージカル「千年に一度の奇跡」シリーズ作曲
他