No.129
田中洋太
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 昨年古稀を過ぎたので、まあ比較的長く作曲家をやってきました田中洋太(田中洋)と申します。最近はルーティンの散歩中、遊ぶ子供たちの様子を見ては、世の中がこれから無事になりゆくのか心配している毎日です。気候の変動、戦争…この文明世界全体が瀬戸際に来ていて、変化していかざるを得ないように思えます。これからの音楽界も無関係ではあり得ないでしょう。そこに受け継がれているものがあれば、新しく出てくるものを否定的にではなく温かく見つめていきたい、と思っています。

 振り返ってみると、28才の時にNHK特集『奥飛騨白川郷』等で作曲家デビューし、40才で『銀河オーケストラ(管弦楽団)』を結成・主宰し活動を始めてから、ずいぶん時が経ちました。初めてJCAAの会に参加させていただいた時、故服部克久先生から「銀河オーケストラの田中さんです」とご紹介いただいたことを印象的に覚えています。

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 通常のフルオーケストラにサクソフォン8本を加えたこの楽団の発想は、結局「ある時、耳の奥でこういうサウンドが鳴った」というのが本当のところですが、理屈を加えれば「弦の合奏にサクソフォン群をユニゾンで重ねて音色に金箔を置く(張る)」「ジャズ、ポップスからのアプローチも考慮に入れて」等々あります。とかく何か新しいことを始めるといろいろ言われるもので、「その編成に前例のあるのは音楽史をみればわかることです」とのもっともなご指摘もありましたが、「あるのは知っているんだが、要点はその『用法』でしょうね」とお答えしています。チェロの奏法を変革したパブロ・カザルスも、別に新しいチェロを使用したわけではありません。いずれにせよ変化発展していくことが永続性に繋がると信じてやっています。

 無常の時の流れの中で、物事は目まぐるしく変わっていきますが、今また大きな時代の過渡期の中にあって、ミュージックというものがこの世界に在って本当に良かった、と心から思います。当たり前のように存在するミュージックと、ピアノという楽器及びステレオで聴くレコードを通じて出会ったのは、5才の頃でした。その時、自分を取り巻く空気の色が一変したのを明瞭に記憶しています。以来、(遊ぶこと以外)他に特に志望するものもなく、ただ漠然と「音楽家になりたい」と思いながら東京に来て半世紀余り、何とかこうしてこういう場に寄稿させていただけるようになれたのは、ありがたいことです。

 若いころアメリカにも拠点を持ち、L.A.フィルハーモニックはじめ、多くのミュージシャンやエンジニアの方々とご一緒できたのもミュージックあってのことで、非常に貴重な経験でした。つくづく社会に支えられてきたことを実感しています。

 音楽は人間の夢かもしれない。社会全体に幾重にも支えられて、上澄みのところで自分たちは生かされているのかもしれない。そのことを忘れないようにしたいと思います。
 
 最近は、30年続けた銀河オーケストラも大幅にメンバーチェンジし、何とかさらに広く世に知られた公益性のあるものにと心がけつつ、◎骨にムチ打ち、日々躍進しております。難しいのは承知で継続してきたこの私設楽団に、持てる情熱を注いでいこうと存じます。


◎田中洋太(たなかようた) Profile
国立音楽大学卒業。NHKラジオ番組で作曲家デビュー。NHK特集「奥飛騨白川郷~合掌屋根を葺く~」(第3回地方の時代賞、文化の創造賞受賞)、日本テレビ「追跡」、ABC放送制作ドラマ「二人の医師」、東京MX2「ヒーリングタイム&ヘッドラインニュース・Tokyo Photo Library」ほかテレビ、ラジオ番組等で活躍。世界デザイン博・三菱未来館の音楽をL.A.フィルハーモニックと現地録音。銀河オーケストラ主宰。これまでにCDを19枚リリース。

HP https://gingaorchestra.com
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