NO.6-22002年以前に公開された記事です。
私は音大ではない四年制の大学を卒業しているのですが、十数年前留学を考える前に主だった日本の音楽学校に正規の音楽教育を受けられるか問い合わせて回ったことがあります。結果は全てダメでした。学位はいらないし、四年制の大学を出ているのですから音楽以外の一般教養などを除いた専門課程を二年程度で修了できないか問い合わせたのですが論外のようでした。
アメリカにはそういう制度がたくさんあります。USCのライバル校、UCLAも必要に応じて単科ごとに受けられるエクステンションと呼ばれる制度が充実しています。UCLAにはフルタイムの大学院映画音楽プログラムはありませんが、とても評価の高いエクステンションプログラムがあります。料金も数万円からと格安です。
一方、USC音楽校は大御所ジェリー・ゴールドスミス、タイタニックのジェームス・ホーナー、アメリカン・ビューティーのトーマス・ニューマンを生み出した映画音楽の名門校です。(インターナショナル・オフィスの主任によるとジョン・ウィリアムスもUSC出身だそうですが確認していません。誰か知っていたら教えて下さい。)UCLAとUSCの両方で学んだ作曲家も大勢います。
講師陣は
ディズニー音楽監督、ノーマン・バディ・ベイカー
「モッキンバードを殺して」のエルマー・バーンスタイン、
「エデンの東」のレオナード・ローゼンマン、
ジョン・ウィリアムスのオーケストレーター、ジミー・ブライアント、
「青春の旅立ち」のデビット・スピアー
「モダンタイムス」のデビット・ラキシン
ソサエティー・フォー・コンポーザーズ会長のリチャード・ベリス
「スピーシーズ」「ソードフィッシュ」のクリストファー・ヤング
など、まだ半分以下ですが長くなるのでこのへんにしておきます。
「映画」を除いた純粋な音楽校として、USCはアメリカ西部でトップ、全米で3〜10位。監督、プロデューサーなど映画製作学課は全米でUCLAとトップを争っています。スティーブン・スピルバーグがUCLAで、ジョージ・ルーカスがUSCです。映画音楽ではアメリカでも大学院レベルのコースを持っている学校が少ないので首位です。
これくらいが日本にいる時の私の持っている知識でした。ここで自分の音楽が通用するのだろうか。仮に通用しても毎年そう何人も新人作曲家は必要無い。もしトップに残れればロサンゼルスに残ってハリウッドに挑戦し続られるかもしれませんが、ダメだったら引退かも知れない。いや、しかしUSCのパンフレットには「毎年多くの卒業生が業界に推薦されている」と書いてあります。これは期待できるかも知れない、と思っていました。
さて初日のガイダンス、学課長のバディ・ベイカーが挨拶で開口一番「君たちはここに来る前にパンフレットで色々読んでいるでしょうが、あれは宣伝のための嘘です。」これにはさすがに生徒全員ショックを受けていたようでした。さらに追い討ちをかけるように「大学にいる間は何をしても、どんなに良い曲を書いても、何も起きません。すべては学校が終わってからです。かといってこのコースも捨てたものではありません。何と去年の卒業生は半数近くも音楽関係でなくとも何らかの仕事をしている。映画の作曲家になるには運が良くて最低十年かかるところ、ある生徒は卒業後たった5年で劇場映画の作曲をしました。彼はすごい。」
自分の大学のパンフレットに書いてあることを堂々と嘘だと言ってしまう、あなたのほうがよほどすごいと思いました。バディ・ベイカー氏の自宅の書斎の壁にはディズニーからの表彰状と並んで「優秀な生徒から作風を盗め」と自分で書いてはってあります。しかも来客がある度に「自分が長年一線で仕事をできる秘訣はこれだ」と言って見せているようです。まさに堂々としたものです。アメリカ人は同じ職場で働いていても他人の仕事は他人の仕事、組織をまとめようとはしません。組織を取りまとめるのはマネージャー「個人」の仕事で「全員」の仕事ではないのです。したがって、他人がパンフレットに書いたことには当然一切責任を持ちません。このころはまだそれに気付いていませんでした。(つづく)
◯その1へ
◯その3へ
◯その4へ
◯その5へ
◎中西長谷雄(なかにしはせお) Profile
略歴:1958年東京に生まれる。1982年国際基督教大学教養学部卒業。2001年南カリフォルニア大学音楽校大学院修了、映画音楽専攻。デジタルレコ−ディングシステム・シンクラビア等シンセサイザーのプログラマーを経て現在作曲・編曲家。
*2001年:南カリフォルニア大学音楽校大学院修了、映画音楽専攻
o Norman "Buddy" Baker, Richard Bellis, Elmer Bernstein, Jon Burlingame, Gerge Burt, Joe Harnell, Ed Kalnins, Brian King, David Raksin, Leonard Rosenman, Jack Smally, David Spear, Christopher Young.
* 1991〜1997年:真鍋理一郎に管弦楽法を学ぶ
* 1982年:佐藤博にコンピューター音楽
* 1982年:国際基督教大学教養学部卒業、哲学、数学専攻
* 1980〜1982年:松本秀彦ジャズスクール、小谷教夫にジャズピアノ、理論を学ぶ。
* 2000年 The Society of Composers and Lyricists(米国)準会員
* 1999年 松村禎三、山本直純、両氏の推薦により作曲家協議会会員。
* 1998年 小野崎孝輔氏の推薦により作編曲家協会会員。
* 主な取引先
o 東宝株式会社
o 株式会社博報堂
o 株式会社オズミュージック
o 株式会社フューチャーブレイン
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中西長谷雄
ロサンゼルス留学記(その2)
私は音大ではない四年制の大学を卒業しているのですが、十数年前留学を考える前に主だった日本の音楽学校に正規の音楽教育を受けられるか問い合わせて回ったことがあります。結果は全てダメでした。学位はいらないし、四年制の大学を出ているのですから音楽以外の一般教養などを除いた専門課程を二年程度で修了できないか問い合わせたのですが論外のようでした。
アメリカにはそういう制度がたくさんあります。USCのライバル校、UCLAも必要に応じて単科ごとに受けられるエクステンションと呼ばれる制度が充実しています。UCLAにはフルタイムの大学院映画音楽プログラムはありませんが、とても評価の高いエクステンションプログラムがあります。料金も数万円からと格安です。
一方、USC音楽校は大御所ジェリー・ゴールドスミス、タイタニックのジェームス・ホーナー、アメリカン・ビューティーのトーマス・ニューマンを生み出した映画音楽の名門校です。(インターナショナル・オフィスの主任によるとジョン・ウィリアムスもUSC出身だそうですが確認していません。誰か知っていたら教えて下さい。)UCLAとUSCの両方で学んだ作曲家も大勢います。
講師陣は
ディズニー音楽監督、ノーマン・バディ・ベイカー
「モッキンバードを殺して」のエルマー・バーンスタイン、
「エデンの東」のレオナード・ローゼンマン、
ジョン・ウィリアムスのオーケストレーター、ジミー・ブライアント、
「青春の旅立ち」のデビット・スピアー
「モダンタイムス」のデビット・ラキシン
ソサエティー・フォー・コンポーザーズ会長のリチャード・ベリス
「スピーシーズ」「ソードフィッシュ」のクリストファー・ヤング
など、まだ半分以下ですが長くなるのでこのへんにしておきます。
「映画」を除いた純粋な音楽校として、USCはアメリカ西部でトップ、全米で3〜10位。監督、プロデューサーなど映画製作学課は全米でUCLAとトップを争っています。スティーブン・スピルバーグがUCLAで、ジョージ・ルーカスがUSCです。映画音楽ではアメリカでも大学院レベルのコースを持っている学校が少ないので首位です。
これくらいが日本にいる時の私の持っている知識でした。ここで自分の音楽が通用するのだろうか。仮に通用しても毎年そう何人も新人作曲家は必要無い。もしトップに残れればロサンゼルスに残ってハリウッドに挑戦し続られるかもしれませんが、ダメだったら引退かも知れない。いや、しかしUSCのパンフレットには「毎年多くの卒業生が業界に推薦されている」と書いてあります。これは期待できるかも知れない、と思っていました。
さて初日のガイダンス、学課長のバディ・ベイカーが挨拶で開口一番「君たちはここに来る前にパンフレットで色々読んでいるでしょうが、あれは宣伝のための嘘です。」これにはさすがに生徒全員ショックを受けていたようでした。さらに追い討ちをかけるように「大学にいる間は何をしても、どんなに良い曲を書いても、何も起きません。すべては学校が終わってからです。かといってこのコースも捨てたものではありません。何と去年の卒業生は半数近くも音楽関係でなくとも何らかの仕事をしている。映画の作曲家になるには運が良くて最低十年かかるところ、ある生徒は卒業後たった5年で劇場映画の作曲をしました。彼はすごい。」
自分の大学のパンフレットに書いてあることを堂々と嘘だと言ってしまう、あなたのほうがよほどすごいと思いました。バディ・ベイカー氏の自宅の書斎の壁にはディズニーからの表彰状と並んで「優秀な生徒から作風を盗め」と自分で書いてはってあります。しかも来客がある度に「自分が長年一線で仕事をできる秘訣はこれだ」と言って見せているようです。まさに堂々としたものです。アメリカ人は同じ職場で働いていても他人の仕事は他人の仕事、組織をまとめようとはしません。組織を取りまとめるのはマネージャー「個人」の仕事で「全員」の仕事ではないのです。したがって、他人がパンフレットに書いたことには当然一切責任を持ちません。このころはまだそれに気付いていませんでした。(つづく)
◯その1へ
◯その3へ
◯その4へ
◯その5へ
◎中西長谷雄(なかにしはせお) Profile
略歴:1958年東京に生まれる。1982年国際基督教大学教養学部卒業。2001年南カリフォルニア大学音楽校大学院修了、映画音楽専攻。デジタルレコ−ディングシステム・シンクラビア等シンセサイザーのプログラマーを経て現在作曲・編曲家。
*2001年:南カリフォルニア大学音楽校大学院修了、映画音楽専攻
o Norman "Buddy" Baker, Richard Bellis, Elmer Bernstein, Jon Burlingame, Gerge Burt, Joe Harnell, Ed Kalnins, Brian King, David Raksin, Leonard Rosenman, Jack Smally, David Spear, Christopher Young.
* 1991〜1997年:真鍋理一郎に管弦楽法を学ぶ
* 1982年:佐藤博にコンピューター音楽
* 1982年:国際基督教大学教養学部卒業、哲学、数学専攻
* 1980〜1982年:松本秀彦ジャズスクール、小谷教夫にジャズピアノ、理論を学ぶ。
* 2000年 The Society of Composers and Lyricists(米国)準会員
* 1999年 松村禎三、山本直純、両氏の推薦により作曲家協議会会員。
* 1998年 小野崎孝輔氏の推薦により作編曲家協会会員。
* 主な取引先
o 東宝株式会社
o 株式会社博報堂
o 株式会社オズミュージック
o 株式会社フューチャーブレイン
※掲載は所属当時