NO.6-5
中西長谷雄

<最終回>ロサンゼルス留学記(その5)

今回は、SCL前会長リチャード・ベリス氏にお願いしてありましたJCAA会員の皆様へのメッセージが予想以上に長くなりましたので、取り急ぎ、ロサンゼルス留学記(その5)「春学期、ASCAPワークショップ」編を報告します。

春にはスカイウォーカースタジオでの録音実習、クリストファー・ヤング氏のワーナーブラザースでの録音見学、ロバート・フェルナンデス氏の5.1chミックスなど、これが本物のハリウッド音楽制作だという物を見ることができました。USCを終了したあとASCAPワークショップに合格し、録音実習では最高の評価を得られました。私は「セイブ・ザ・ラストダンス」という映画に音楽を付けたのですが、4人の作曲家と実際にこの映画を担当したミュージックエディターに、そろって公開された本物の映画より良いという批評をいただきました。しかしそれですぐ仕事が来るほど甘い物ではありません。

また、このワークショップはCNNでも放送されたのですが、残念ながら最高の評価にもかかわらず私は写っていませんでした。日本にいるときからの知り合いで、ロサンゼルスで活躍するディズニーの「ダイナソー」のCGアニメーター、佐藤篤さんによると彼も映画が公開された頃いろいろインタビューされたそうです。しかし、やはりアメリカ人並みにばりばり賢いウイットに富んだ英語を使えないと番組には使われないようです。いろいろ課題はありますが、来年2002年1月よりクリストファー・ヤング氏の助手(エレクトリック・スコア担当)として映画作りに参加できるようです。あの映画の終わった後、観客が席を立ち誰も見ていない間に流れるリストに、自分の小さな名前を探せる日も近いかと思います。

最後に、留学にあたりお世話になった方々に感謝いたします。

日本作編曲家協会:小野崎孝輔様

作曲家:真鍋理一郎様
作曲家:松村禎三様
作曲家:山本直純様

株式会社博報堂:川原和彦様
東宝株式会社:岡本義次様

それではお待たせしました。ソサエティー・オブ・コンポーザーズ・アンド・リリシスツ(SCL)前会長、南カリフォルニア大学音楽校講師、ASCAPフィルムミュージックワークショップ主任講師、エミー賞作曲家のリチャード・ベリス氏からのメッセージです。
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Greetings to the members of the JCAA. I am honored to be asked to write this message by one of your members and a very talented composer, Haseo Nakanishi.

JCAA会員の皆様へご挨拶申し上げます。貴協会会員であり、また大変才能に恵まれた作曲家の中西長谷雄さんより、このメッセージを書くよう依頼を受け光栄に存じております。

While a great deal of today's film music is written and recorded in Los Angeles, the film making business as well as the film music business is today, more international than ever before. There have always been highly talented composers from many countries who wrote for film. Some, like Toru Takemitsu for example, worked in their native country while others, like Erich Wolfgang Korngold came to Los Angeles. I have a British friend who credits Korngold, born in Czechoslovakia, with writing some of the most "British" music he ever heard for the Adventures of Robin Hood. This illustrates just how easily national boundaries are crossed with music. There are more successful film composers today than ever before coming from all over the world.

今日の映画音楽の大部分はロサンゼルスで書かれ録音されておりますが、映画音楽制作は映画制作と同様かつてないほど国際的になっています。これまでも多くの国々出身の非常に才能に恵まれた映画の作曲家達がいました。ある者は武満徹のように自分の国で活躍し、またある者はウォルフガング・コーンゴールドのようにロサンゼルスにやってきました。私のイギリス人の友人は、チェコスロバキア出身のコーンゴールドの「ロビンフッドの冒険」を、彼の知る最もイギリス的な音楽と論評しています。これは如何に音楽が簡単に国境を越えるかという良い例です。今日ではかつてないほど多くの成功した映画音楽家が世界中からやって来るようになりました。

Many film music students come to the U.S.A. to study. It has been my privilege for the past 15 years to teach at the University of Southern California where there is a full time program for the study of composition for film and television. I also serve as the principle mentor for the ASCAP Film and Television Workshop which offers a short but wonderful experience for the 15 composers chosen to participate each year. The greatest privilege, however, has been to serve as president of the Society of Composers & Lyricists.

多くの映画音楽の学生もアメリカに学びにきます。私は15年間、南カリフォルニア大学のフルタイムプログラム、「フィルム、テレビの作曲」課程で指導しております。また、短期プログラムですが毎年15人の選ばれた作曲家にすばらしい経験を提供する、ASCAP「フィルム、テレビのワークショップ」には主任指導者として携わってまいりました。しかし、私が最も誇りに感じておりますのは、ソサエティー・オブ・コンポーザーズ・アンド・リリシスツ(SCL)の会長を勤めさせていただいた事であります。

The SCL is a non-profit organization of composers and lyricists who work specifically in film and television. It boast an illustrious Advisory Board and has a distinguished history. In the 1950's and 60's, the Composer's and Lyricists Guild of America (the former name of the SCL) was the official labor union for film composers and lyricists. The membership included such notable composers as Max Steiner, Bernard Herrmann, Korngold, Demitri Tiomkin and David Raksin. While composers in the United States are no longer allowed to be a union, that is to collectively bargain, the SCL serves as a trade organization of working professionals, disseminating information on the marketplace, contracts, and other subjects of common interest. You can get more info on the SCL from http://www.filmscore.org.

SCLは映画、テレビで活躍する作詞、作曲家の非利潤団体です。名だたる顧問役員と輝かしい歴史を誇りとしております。1950年代、60年代はコンポーザーズ・アンド・リリシスツ・ギスド・イン・アメリカ(SCLの旧名称)は映画の作詞、作曲家の公式の労働組合でした。その会員は、マックス・スタイナー、バ−ナード・ハーマン、コーンゴールド、ディミトリー・ティオムキン、デビット・ラキシンなど卓越した作曲家を含んでおります。現在はアメリカの作曲家は団体交渉権を持つ(公式の)労働組合を許可されていませんが、SCLはプロの作詞、作曲家のために情報を市場に提供し、また、契約やその他共通利益を守るための労働者の団体として活動しております。詳しい情報は http://www.filmscore.org に掲載されております。

One of the biggest challenges we face as a creative community is that the people who hire us, most often don't understand the value of music in film. This is understandable because no one can really say how much the music score contributed to the success or failure of a movie. Add to this the fact that most young film composers want to write for a film so much that they will work for almost nothing. These two things send a message to film makers that music is not a thing of great value. We are an international community of composers and must all do our part as individuals to maintain the highest level of value for the work we do.

我々創作者の共同体にとって最も困難な問題は、我々を雇う側の人々に音楽の映画に与える価値の重要性をなかなか理解してもらえない事にあります。その理由はある程度理解できることです。なぜなら、ある映画の成功又は失敗に音楽がどれだけ寄与しているかということは誰にも正確に言いきれるものではありません。これに加え若い音楽家が映画音楽を書きたいあまり、無料同然で仕事をしているという事実があります。この二つの事実が映画制作者に「音楽は大して価値のない物だ」というメッセージとして伝わっているのです。我々(SCL)は国際的な作曲家の団体であり、各人がそれぞれ自分の労働に対し最高の価値を保てるよう役割を果たさなくてはなりません。

I am thrilled to find that the members of the JCAA are so interested in film and television music. I wish you all much success in your careers.

JCAA会員の皆様が映画、テレビの音楽に強い関心をお持ちと知り胸の踊る思いであります。皆様方の御成功を心から願っております。

Richard Bellis
リチャ-ドベリス

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◎中西長谷雄(なかにしはせお) Profile
略歴:1958年東京に生まれる。1982年国際基督教大学教養学部卒業。2001年南カリフォルニア大学音楽校大学院修了、映画音楽専攻。デジタルレコ−ディングシステム・シンクラビア等シンセサイザーのプログラマーを経て現在作曲・編曲家。

*2001年:南カリフォルニア大学音楽校大学院修了、映画音楽専攻
o Norman "Buddy" Baker, Richard Bellis, Elmer Bernstein, Jon Burlingame, Gerge Burt, Joe Harnell, Ed Kalnins, Brian King, David Raksin, Leonard Rosenman, Jack Smally, David Spear, Christopher Young.
* 1991〜1997年:真鍋理一郎に管弦楽法を学ぶ
* 1982年:佐藤博にコンピューター音楽
* 1982年:国際基督教大学教養学部卒業、哲学、数学専攻
* 1980〜1982年:松本秀彦ジャズスクール、小谷教夫にジャズピアノ、理論を学ぶ。

* 2000年 The Society of Composers and Lyricists(米国)準会員
* 1999年 松村禎三、山本直純、両氏の推薦により作曲家協議会会員。
* 1998年 小野崎孝輔氏の推薦により作編曲家協会会員。

* 主な取引先
o 東宝株式会社
o 株式会社博報堂
o 株式会社オズミュージック
o 株式会社フューチャーブレイン


※掲載は所属当時

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