NO.10-2
五木田岳彦

エッセイ2

最近「Recollection ? Progression」というCDを制作した。レコーディングはニューヨークで行ったのだが、スタジオでの録音か、ホール録音にするかを最後まで悩んだプロジェクトであった。最終的にはスタジオで録音することになったのだが、この選択は生音の録音の場合はよく悩むことである。CDの出来あがりの音を、クラシック的なサウンドにするか、ポップ感覚を持ったサウンドにするかが選択の大きな鍵になるのだが、音楽の種類によってはどちらでもいける場合が難しい。好み次第で、どちらの録音方法でもおもしろいCDになるのである。問題はこの好みが、制作メンバーの中でも随分と違う場合が多いということである。

レコーディングにまつわる話として、以前に日本の某有名音楽プロデューサといっしょに仕事をした時の話である。私はそのプロジェクトの作、編曲家であった。彼はポップス系の音楽プロデューサで、レコーディングといえば、巨大なSSLなどのデジタル卓があるスタジオのコントロールルームから、ガラス越しに見えるアーティストに向かって、サングラスをかけたまま、あれやこれやと指示をしながら録音をするのが常識であった。というより、それ以外の録音、特にクラシックの録音ではよくある、ホールでのステレオ録音など、全く知らない世界であった。

アメリカでは、未だにポータブルな16ch程度のアナログ卓とマイク、それにDAT程度の機材で、グラミー賞を取ってしまうようなレコーディングが結構あったりする。
もちろんホールは最高の場所、マイクは厳選されたもので、卓にもいろいろな仕掛けがあり、なによりもエンジニアの経験や耳が最も大切な要素である。マイクの角度や距離、それぞれの楽器の位置や方向などを、ミリ単位で決めていくこの種類のレコーディングは、まさに職人芸である。

某有名音楽プロデューサは、最初このようなコンパクトな機材をみて、驚いてこう言った、「なんでこんな時代おくれの機材で録音しているんだ?」「SSLはどこにあるんだ?」
「なんでマルチじゃないの???」「失敗しても、もう予算はないんだぞ!」
この時も、スタジオ録音か、ホール録音にするかが、最後の最後まで大きな議題となった。
最終的には彼をなんとか説得して、ホールでのレコーディングはスタート。その出来あがりの音が以外にも良いことに、プロデューサも大満足で、無事レコーディングは終了。

彼はその後、マイク片手に日本で録音に向いている音楽ホールを探していたとか。

五木田岳彦
2002年2月18日

◯エッセイ1
◯ご挨拶


◎五木田岳彦(ごきたたけひこ) Profile
作曲家、編曲家、ピアニスト、音楽プロデューサー
1961年生まれ。国立音楽大学時代に渡米。ニューイングランド音楽院を首席で卒業後、ハーバード大学大学院作曲科で博士号取得。卒業後、同大学にて作曲、音楽理論の教鞭をとる。ハーバード大学最優秀講師賞、スプラギュー管弦楽作曲賞他、受賞多数。在学中は作曲家としての活動以外に、コーラス団員としてボストン・シンフォニー(小澤征二、音楽監督)と共演。1999年には芸術家としての特別な功績を認められ、アメリカ移民局より最高位の永住権を与えられる。今までに数々のオーケストラ曲、室内楽曲などの作曲、編曲、CD、DVD制作、映画音楽制作、またミュージカル、ダンスパフォーマンスなどの舞台音楽などを制作している。今までにカーネギーホール、ボストン・シンフォニーホール、アスペン音楽祭、イースタン音楽祭、マーブルヘッド音楽祭など、全米各地で作品が紹介されている。またアメリカ国営放送の音楽番組にゲストとして出演多数。また、皇太子殿下、雅子様御成婚記念作品の作曲、指揮。この模様はNHKニュースでも紹介される。アメリカ映画「パテ」では音楽プロデューサとして活躍。この作品は2001年度カンヌ映画祭、サン・ダンス映画祭、ニューヨーク映画祭、ベルリン映画祭などをはじめ、世界各地で数々の賞を受賞。CNNでも紹介され、アメリカで最も注目された短編映画の1つである。

日本ではシエナウインドシンフォニー(佐渡裕、指揮)、神奈川フィルハーモニーなどの作曲、編曲。また最近人気の室内樂ユニット、クリスティーナ・アンド・ローラのプロデュース、作編曲。宝塚歌劇団の音楽担当(小池修一郎作品)。自ら原作、脚本、音楽制作を手がけたオリジナル・ミュージカル「マンハッタン・コレクション」は来年のミュージカル月間の作品として選ばれ、東京芸術劇場にて再演が予定されているなど、多方面に渡った才能を発揮している。また東芝EMI、ビクターエンターテイメントのプロデューサとしてのCD制作。さらに、話題の商品として各業界から注目されている、犬と飼い主を同時にリラックスさせるために作られたブックCD「愛犬音楽館」(徳間書店)の作曲など、その活動範囲は広い。2001年にはニューヨークで音楽制作会社(株)natural five,inc.を設立。その第一弾、日本の童謡をトランペットとピアノのための作品として収録した「recollection-progression」をアメリカで発売。このCDにはアメリカテロ同時多発事件犠牲者のための追悼曲も含まれている。

今後の活動として、ニューヨークでは、ブロードウエー・ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」、「クレイジー・フォー・ユー」、「シカゴ」などの編曲家として知られる世界的巨匠、ピーター・ハワードの、最新CD制作のアレンジャ−、音楽監督。今年11月には読売交響楽団と中川英二郎(トロンボーン)のための作曲、またピアニストとして共演(井上道義、指揮)。このコンサートは日本テレビの音楽番組「真夜中のコンサート」にて放送が予定されている。

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